「転勤が決まった」「親からマンション、又は一軒家を相続した」というような状況で家を貸すことを検討する方は、多いかと思います。しかし個人で家を貸す場合、貸主として何をしたら良いか分からない方も多いので、こちらでは、家を貸す前にやっておくこと、家を貸すときの注意点や流れについて解説していきます。
まず初めに、家を貸すときに知っておくべき注意点を解説していきます。
住宅ローン返済中の家は、原則として貸し出すことはできません。なぜなら住宅ローンは、契約者本人またはその家族が住む家の購入を目的としているからです。金融機関の承諾を得ないまま賃貸を行った場合、金融機関との契約に違反することとなり、ローン残債の一括返済を求められる可能性もあります。ただし、転勤などやむを得ない理由の場合は認められるケースもあるため、まずは金融機関に相談してみましょう。
外装のメンテナンス
一戸建てを賃貸する場合、分譲マンションと異なり、外壁や屋根なども管理しなければなりません。これらのメンテナンスを怠ると、雨漏りなどが発生する可能性もあります。定期的な点検やメンテナンスが必要な箇所ですので、修繕計画を作成し、修繕費用を見込んでおきましょう。
水害などのリスク
分譲マンションは、ほとんどの部屋が2階以上に位置していますが、一戸建ては1階を出入口として建てられている物件が多く、水害の場合は浸水しやすいです。また、開口部が多く、4面とも外に接しているため、台風などによる損傷も大きくなります。自然災害による損傷は、貸主が修理しなければならないため、あらかじめ火災保険などに加入し、万が一の費用を準備しておきましょう。
セキュリティ
マンションの場合はオートロックなど建物全体でセキュリティが設定されていることが一般的ですが、一戸建ての場合は自分で対策を行う必要があります。死角となる場所があるなど、入居者の安全性に不安がある場合は、民間の警備会社と契約することを検討してもよいでしょう。
入居者希望者より申し込みが入ると入居審査を実施します。契約前に「支払い能力があるか」「家を貸しても問題なく使用してくれるか」を確認し、トラブルとなりそうな入居者と契約してしまうことを未然に防ぐために行います。入居者募集を賃貸管理会社に依頼している場合は、提携している保証会社や賃貸管理会社独自の審査を実施することもあり、より厳しい審査基準でチェックすることができるでしょう。
家を貸すときには、以下の費用がかかります。
賃貸借契約を締結する際は、必ず契約書を作成しましょう。契約書には「契約期間」「賃料」「敷金」「礼金」など、契約時に決めた内容を記載します。また、契約期間中の「付帯設備の取り扱い」「修繕費用の負担」や解約時の「解約通知期限」「原状回復義務」についても記載されています。
なかでも「原状回復」については、個別に特約を設定することも考えられますが、特約の有効性については、判例により下記のような要件が必要とされています。
(1)特約の必要性があり、かつ、暴利的でないこと
(2)賃借人が通常損耗や経年変化の修繕義務を負うことを認識していること
(3)賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
これらの要件が満たされていない場合は、特約を設定していても無効とされてしまう可能性があるため、注意しましょう。
家を貸すときは、必ず貸し出す前の家の状態を記録しておきましょう。入居者が退去した際には、入居者の故意や過失などによる損傷の「原状回復」を求めることができますが、退去時の物件の損傷については、入居者と貸主のどちらが支払うかで、しばしば揉めることがあります。
とくに古い家を貸す場合は、すでに傷などがついている箇所もあります。入居前の家の状態を写真等で記録し、退去時の状態と比較することで、原状回復の負担についてのトラブルを減らすことができるでしょう。
なお、一般的な生活をしていても発生しうる「経年劣化」や「通常損耗」は、原則貸主負担です。国土交通省から原状回復ガイドラインも発表されているので、一度目を通しておくとよいでしょう。
家を貸すことによって得られる家賃収入は、副業によって得た収入とみなされるのでしょうか。たとえば、公務員は原則副業禁止とされていますが、一定の基準内であれば賃貸を行うことは可能です。同様に、民間企業においても基準内の賃貸であれば認められることが多いようです。
これは「家賃収入は不労所得のため、本業への影響が少ないこと」や「親が賃貸経営していたマンションを相続するなどのやむを得ない理由であること」という理由も含まれています。
公務員による賃貸が副業にあたってしまう「基準」は、人事院の規則に記載されています。
副業として賃貸経営を考えている方は、これらの基準に該当しないようにしましょう。
家を貸すと家賃収入を得ることができます。この家賃収入から、家を貸すためにかかった費用を差し引いた利益が「所得」となり、所得税が課税されます。家を貸すことによって発生する所得税を納税するためには、確定申告が必要です。家を貸したときの税金についても知っておきましょう。
家を貸す注意点について理解したら、次は具体的に家を貸す流れをお伝えします。入居者との契約までの流れは、次の通りです。
賃貸を行う際は、賃貸中の物件管理を不動産管理会社に任せることが一般的です。まずは不動産管理会社を探し、物件の賃料査定を依頼しましょう。
不動産管理会社は、賃貸管理を専門に扱っている会社または賃貸に強みのある会社を選んでください。また、ファミリー向けの物件や一戸建ての賃貸、期間を限定した定期借家契約を用いた賃貸は、賃貸市場において少数派です。取り扱い実績のある不動産管理会社に依頼しましょう。
査定には、物件の所在地や築年数、間取りなどのデータのみで行う机上査定と、実際に家の中を見て設備や周辺環境なども考慮する訪問査定の2種類があります。訪問査定の方が査定材料は多くなるため、より精度の高い査定金額を知ることができます。
賃料査定は、複数の不動産管理会社に依頼しましょう。物件の査定額を比較する際は、査定金額が高いか安いかで判断するのではなく、査定額の根拠や査定に対する考え方を確認しましょう。物件の査定額が低い場合は「確実に借り手を見つけられる賃料」、査定額が高い場合は「入居者が見つけられる上限の査定額」を提示されている場合があります。不動産管理会社によっては、幅を持たせた査定額を提示することもあるようです。
賃料査定を依頼した会社の中から、依頼する不動産管理会社を決めます。物件の査定額や査定額の考え方、取り扱い実績などを踏まえて、総合的に判断します。複数の不動産管理会社に依頼することも可能ですが、入居者募集の条件は揃えなければなりません。また、入居者決定後の賃貸管理は、入居者を見つけた賃貸管理会社に任せることとなります。
依頼する不動産管理会社を決めたら、入居者募集に向けて条件や賃料を決めていきます。不動産管理会社に提示された査定額を目安として、貸主の希望や他の募集条件と調整しながら決めていきます。もちろん相場より高く貸し出すことも可能ですが、入居者が見つかりにくくなります。また、「ペット飼育」や「喫煙」などに関する条件も付すことができますが、多すぎる条件は入居者候補を狭めてしまうため、最低限の条件を設定しましょう。
入居者募集の条件を決めたら、不動産ポータルサイトなどに広告を掲載し、入居者希望者を募りましょう。不動産管理会社によっては、社宅として貸し出す法人契約のチャネル、自社のグループ会社などのネットワークを生かした独自チャネルを持ち、集客力や法人契約を強みとしている会社もあります。
広告を見た入居者希望者から内見申し込みが入ることがあります。内見を通して「住みたい」と思ってもらうことができれば入居申し込みに繋げることができるので、内見前に家の中を綺麗にしておきましょう。
入居希望者から申し込みが入ったら、入居審査を実施します。また、入居者が募集条件とは異なる条件で契約をしている場合は、条件交渉も行われます。
入居審査は信用機関や不動産管理会社独自の基準により審査され、最終的な入居の可否は貸主が決めます。信用機関や不動産管理会社による審査では、職業や過去の滞納歴などの支払い能力が審査対象です。
入居審査に問題がなく、契約条件においても双方の合意が得られたら、賃貸借契約を締結します。
家を貸す前に知っておくべきことや、やっておくべきことについて解説します。
家を貸すということは、家賃という対価と引き換えに、自分の家を使わせることです。家賃(対価)に見合った家でなければ、借り手は見つけられません。入居前に専門業者によるハウスクリーニングを実施し、綺麗な状態の家を貸すのが一般的です。中でも特にチェックしておきたいポイントは、次の通りです。
基本的には専用の薬剤や機材を使うので、専門業者に任せましょう。
古い家の場合は、家を貸す前にリフォームするべきかどうか検討しましょう。築年数が経っていたり、内装が劣化していたりすると、借り手が見つかりづらくなります。
リフォームによって家賃を上げられる可能性もあるため、不動産管理会社に相談してみるとよいでしょう。なお、壊れている設備の修理は必須となります。
リフォームの費用感などはこちらを参照
家を貸す際には以下2つの管理方法があり、違いを理解してご自身に最適な管理方法を選びましょう。
自主管理は、賃貸における管理業務のすべてを自分で行う方法です。家賃の回収、入居者からの問い合わせ対応、設備故障の際の修繕手配など、すべて自分ひとりで対応しなければなりません。入居者からの連絡は予測することが難しく、修繕手配においても業者の営業時間に合わせて連絡が必要だったりするため、専業大家でなければ難しいでしょう。
不動産管理会社に管理業務を委託する方式です。家賃の回収など管理業務の一部を委託する場合や、入居者の問い合わせから設備の修繕手配まで、すべての管理業務を委託する場合など、契約内容によって幅広く設定できます。
転勤時の持ち家を賃貸に出すことを指す「リロケーション」というものがあります。これは、転勤期間に限って賃貸を行うことであり、遠方に住んでいる「貸主」に代わって「不動産管理会社」が管理を行ってくれるサービスです。保証サービスなども充実しており、賃貸が初めての方でもしっかりとサポートが受けられるプランになっています。
家を貸す際には、「普通借家契約」「定期借家契約」「一時使用賃貸借契約」の3つがあります。それぞれの特徴について解説します。
一般的な賃貸における契約方法です。入居者の希望があれば、契約を更新して住み続けることができます。入居者保護の観点から、貸主からの解約には正当事由が必要であり、解約は難しくなっています。
契約時に設定した契約期間のみを賃貸期間とする契約です。入居者は契約期間満了時に原則退去しなければなりません。貸主と入居者の双方の合意をもって賃貸を続けたい場合は、再契約を行います。将来的に家を使う予定がある場合や、家を使わない間に有効活用したい場合におすすめの契約です。
この契約は、転勤などによる一時的な賃貸の場合にのみ用いることが可能です。定期借家契約同様に期間を限定した契約ですが、事前に入居者に対して入居保証期間を設定し、期間終了後は一時的に賃貸していた事由がなくなるまで契約期間が自動的に延長されます。
詳細はこちらの記事をご確認ください。
これまで家を貸すまでの話をしましたが、ここからは家を貸しているときにどのような管理業務が発生するかをお伝えします。家を貸すことが初めての場合は、難しく感じるかもしれませんが、管理業務のほとんどは管理会社に任せることができます。忙しい会社員でも賃貸経営が可能なのはこのためです。
入居者から毎月家賃を受け取ります。原則は貸主の家に入居者が持ってくるとされていますが、現在は口座振替や振り込みが一般的です。入居者からの入金がない場合は督促や回収するための対応も行わなければなりません。債権回収の段階になった場合、裁判などの法的措置をとらなければならないこともあるため、弁護士へ依頼が必要になることもあります。
不動産管理会社を利用すれば、このほとんどを任せることができます。ただし、債権回収や裁判などの法的措置は当事者もしくは弁護士しか対応できません。このような内容も任せたい場合は、貸主から不動産管理会社が賃貸して入居者へ貸し出す「転貸方式」をとっている不動産管理会社を利用しましょう。
入居者から受ける問い合わせについても対応が必要です。中でもクレームは迅速に対応しなければ、対応の遅さにさらなるクレームを受けることになります。また、内容によっては専門知識が必要な場合もあり、対応は慎重に行わなければなりません。これらに対して、副業として賃貸経営を行う貸主が対応することは難しいでしょう。不動産管理会社であれば、管理業務のプロであるため、それまでの実績を活かして迅速にクレーム対応してもらうことができます。
賃貸期間が長くなるにつれて、メンテナンスが必要な設備が増えていきます。壊れているものは修理を行い、耐用年数が過ぎたものは交換するなどの対応が必要です。家に付帯する設備は、入居者が問題なく使使用できる状態にしておく義務を貸主が負っています。あらかじめ修繕費用を積み立てるなどして、備えておきましょう。
家を貸したいと考えた時に、個人的な知り合いや友人に家を貸したいと考えることもあるでしょう。ここでは、個人的に知り合いに家を貸すときの注意点をお伝えします。
付き合いの長い友人であっても、立ち退きや退去時の原状回復などでトラブルとなるケースがあります。また、近しい関係だからこそ言いづらいこともあるでしょう。たとえ知り合いであっても、きちんと契約書を作成することをお勧めします。
契約書には、次のような内容を記載しましょう。
このような契約書を0から作成するためには、専門知識を要します。国土交通省が雛形となる「賃貸住宅標準契約書」を公開していますので、こちらをベースに作成するとよいでしょう。
転勤などで知り合いに一時的に家を貸すときにおすすめなのが「一時使用賃貸借契約」です。
一般的に賃貸で用いられる「普通借家契約」では、契約期間満了時に入居者が更新を希望すれば原則として契約は更新されます。貸主からの解約には、正当事由が認められなければなりません。このため、契約時に定めた期間で必ず入居者に退去してもらえるわけではありません。
しかし「一時使用賃貸借契約」では、一時的に貸し出す理由がなくなれば、契約を終了することができます。たとえば「転勤期間中のみ家を貸す」ということであれば、帰任を理由に賃貸借契約を終了することができます。
知り合いに貸す家がマンションの場合は注意が必要です。
分譲マンションでは、管理組合が「管理規約」や「使用細則」を定めていることが多く、これは区分所有者だけでなく、占有者である入居者にも適用されます。入居者にも「管理規約」や「使用細則」の内容を共有し、マンションのルールも遵守してもらいましょう。
また、家を貸す場合に管理組合に対して届出が必要な場合があります。一般的なものは次の通りです。
マンションの場合は、管理規約等に従う必要がありますので、家を貸す前に必ず確認しておきましょう。
個人で家を貸す場合の注意点をご紹介しました。
住宅ローンを利用している場合は、原則として家を貸すことができなかったり、一戸建ての場合は水害リスクや犯罪リスクに対して対策が必要だったりします。また、賃貸をはじめる前にリフォームなどの先行投資が必要となる場合もあります。入居者とのトラブルについては、入居審査や契約書などの記録を行うことで回避できるものもあるでしょう。
「賃貸経営が副業にあたるのかどうか」という点は、公務員の規定の中にある基準が多いようです。建物の賃貸では5棟または10室以上となっているため、副業と見なされる人は多くないでしょう。
実際に賃貸を始める場合、「自主管理」または「管理委託」のどちらにするか考えなければなりませんが、個人で賃貸行う場合は賃貸管理の手間を抑えられる「管理委託」がおすすめです。
「管理委託」で賃貸を行う場合、まず不動産管理会社を探して賃料査定を実施します。依頼する不動産管理会社を決めたら、入居者募集に向けて、契約方法や賃料などの入居条件を決めていき、リフォームの検討やハウスクリーニングを実施しましょう。そして、入居者の募集を開始し、入居希望者には内見をしてもらいます。入居申し込みが入ったら、入居審査を行い、目立った問題がなければ賃貸借契約の締結です。
不動産管理会社を通さず、知り合いに賃貸する場合でもトラブル防止のために契約書を作成することは忘れてはいけません。貸す家がマンションの場合は、管理規約なども共有し、マンションのルールも順守してもらいましょう。また「なかなか退去してくれない」といったことのないように、一時的な賃貸の場合は「一時使用賃貸借契約」で締結することをおすすめします。
カテゴリ:一戸建てを貸す 関連記事