転勤などの理由により一時的に使っていないマンションを所有している場合、入居者希望者を見つけて貸し出すことで家賃収入を得られます。ただ、家賃収入を得ることで、納める税金が増えてしまうのではないかと不安を感じている人もいるでしょう。
そこでこの記事では、マンションを貸すことで増える可能性がある税金や節税のコツを紹介します。所有している不動産を有効活用して収入を増やしたい方は、ぜひチェックしてください。
マンションを貸すことによって家賃収入を得ると所得金額が増えるため、所得税や住民税などが増えてしまう可能性があります。ここでは、増額になる可能性がある税金の計算方法や税率について確認しておきましょう。
家賃収入が増えるほど、所得税を多く納めなければなりません。所得税の課税対象となる所得金額そのものが増えるので税金も増えるのですが、それだけではなく、所得税は累進課税と呼ばれる課税方式なので、以下の表のとおり、所得金額が大きくなるほど、所得金額に対する税率も高くなっていきます。控除額としてひかれる金額も税率と併せて増えていくため、税率が5%から10%の段階に変わってしまっても、実際に支払う所得税額はそこで急に2倍にはならないのですが、それでも所得金額に占める所得税額の割合は次第に上がっていくようになっています。[注1]
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000円〜1,949,000円 |
5% |
0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 |
10% |
97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 |
20% |
427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 |
23% |
636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 |
33% |
1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 |
40% |
2,796,000円 |
40,000,000円〜 |
45% |
4,796,000円 |
たとえば、課税される所得金額が600万円の場合、所得税額は以下のように計算できます。
所得税額 = 所得金額 × 税率 - 控除額
所得税額 = 6,000,000円 × 0.20 - 427,500円 = 772,500円
仮に、家賃収入を得ることで、課税される所得金額が700万円に増えたと想定すると、所得税額は以下のように計算されます。
所得税額 = 7,000,000円 × 0.23 - 636,000円 = 974,000円
つまりこの例の場合、所得金額が100万円増えたことにより、所得税を約20万円多く納付する必要があるのです。せっかく家賃収入を得たとしても、多額の税金を払ってしまうと、最終的な収入が実は思っていたより増えていなかったということがあります。所得税額の計算方法自体は法律で決まっていることなので、個人ではどうしようもないことですが、「課税される所得金額」がいくらになるかは、同じように家賃収入を得ていても、手間をかけるかどうかで違いが出せる部分なので、後ほど解説する節税のポイントも参考にして、効率的に資産を形成していきましょう。
復興特別所得税は、2011年の東日本大震災からの復興を目的として創設されました。復興特別所得税が徴収されるのは2037年までです。すべての納税者が対象であり、所得税額の2.1%を納めなければなりません。[注2]
所得金額ではなく、「所得税額」の2.1%であることがポイントです。先ほど「所得税」で計算した「所得税額」が少なくなるほど、復興特別所得税の納税額も少なく済みます。同様に課税される所得金額が600万円の場合と、700万円の場合で比較してみましょう。600万円の場合の所得税額は772,500円でした。よって、復興特別所得税は次のように計算されます。
復興特別所得税 = 772,500円(所得税額) × 0.021 = 16,222円
課税される所得金額が700万円の場合の所得税額は974,000円でしたので、復興特別所得税は以下のとおりです。
復興特別所得税 = 974,000円(所得税額) × 0.021 = 20,454円
所得金額が100万円増えたことで、復興特別所得税は約4万円増額となったことがわかります。所得税ほど大きな増額ではありませんが、賃貸による収支を正確に把握するためにも、家賃収入が増えることで所得が増えると税金の支払いがさらに増える要素として復興特別所得税もあるということは認識しておきましょう。
住民税も所得金額をもとに計算されるため、家賃収入を得ることで基本的には増額となります。住民税は次のように計算されます。
住民税 = 所得割 + 均等割
均等割は、都道府県民税1,500円と市区町村民税3,500円の合計であるため、所得金額に関わらず一定です。住民税のうち、所得割の額が所得に比例して高くなります。所得割は、所得金額から、基礎控除・社会保険料控除・医療費控除・配偶者控除・扶養控除などの所得控除を差し引いた額である「課税所得金額」の10%から、配当控除・調整控除・住宅借入金等特別税額控除(住宅ローン控除)などの税額控除をさらに差し引いて求めます。なので、たとえば所得控除を差し引いた課税所得金額が600万円の場合、所得割の納付税額は以下のようになります。
所得割 = 6,000,000円(課税所得金額) × 0.10(税率10%) - 調整控除額
所得金額が増えて、課税所得金額が増えるほど所得割の金額も大きくなるため、結果として住民税も高くなってしまいます。
マンションをして収支を良くしようとする場合、適正な賃料を得ることや、賃料が得られなくなる空室の期間をできるだけ短くしようとすることは勿論重要ですが、費用をできるだけ経費として計上したり、青色申告の特別控除を利用したりすることによって、節税を行うこともまた、収支の改善へとつながります。ここでは、節税の3つのポイントを紹介しますので、ぜひチェックしてください。
所得税や住民税は、課税所得金額を減らすことで節税できます。課税所得金額は、収入から必要経費や各種の控除を差し引いて求められるため、かかってしまった費用のうち、可能な範囲はできるだけ漏れなく経費として計上することが節税のポイントといえるでしょう。
経費として計上できるのは、マンションを貸すことに関わる費用のみです。たとえば、次のような費用を経費として計上できます。
*固定資産税
*減価償却費
*火災保険料や地震保険料などの損害保険料
*リフォーム費用やクリーニング費用
*賃貸管理会社へ支払う手数料
固定資産税や損害保険料といった継続的に支払う費用はもちろん、壁紙やフローリングのリフォーム費用やクリーニング費用など、貸し出す前の準備段階でかかった費用も経費として計上できます。各費用については後の項目で詳しく解説しますので、参考にしてください。
意外と多くの費用が経費となりますが、当然のこととして、プライベートの食費や交通費などは経費として計上できません。故意でなくても、経費になるものとならないものの違いを理解せずに、本来経費として申告できないものを不正に経費として申告するしてしまうと、税務署の調査が入ったり、税金を追加で徴収されたりするため恐れもあります。初めて経費に加えようとするような費用で理解が曖昧なものについては、そのまま申告するとより面倒なことになってしまう場合もあるので、事前にインターネットで国税庁のWEBサイト「タックスアンサー」(No.2210?やさしい必要経費の知識)などで調べる、税務署や国税局電話相談センターに問い合わせて確認しておくなどの注意が必要です。
確定申告時に簡単に行える白色申告ではなく、少し難しくて手間がかかる青色申告をすることも大きな節税ポイントです。青色申告を行うことで最大65万円の青色申告特別控除が受けられるため、課税所得金額を大きく減らせます。結果として、所得税や住民税を節税できるのです。
青色申告を行うためには、事前に税務署に開業届や青色申告承認申請書を提出しておかなければなりません。そのうえで、毎年、確定申告の期間内に必要な書類を提出する必要があります。
確定申告には難しそうなイメージもありますが、誰でも簡単に使える会計ソフトなども販売されています。日々、収入や経費を入力しておけば確定申告書類の形式で出力してくれるソフトもあります。税理士などに相談すれば、しっかりと経費になるものを洗い出してもらえて、有益なアドバイスなどももらえるかも知れません。しかし、その分費用もかかってしまうので、依頼をするかしないかは、そうすることによって節税できそうな額がどれくらいになりそうかが重要です。家賃による収入とそこにかかる税金が高額になりそうなときには協力してもらうと収支が良くなるかも知れません。そうでないのであれば、人によっては慣れ次第でそれほど難しくないということもあるので、まずは申告の仕方の概要や便利そうなソフトの価格なども調べてみて、自力で節税できないかチャレンジしてみるのもおすすめです。
青色申告には青色申告特別控除のほかにも、節税に有効ないくつもの特典がついているので、できればその方法を身に付けて活用していきたいものですが、青色申告ができなくても申告できる、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除など、一般的に適用される控除についても、必要書類の準備などさえしておけば利用できるものは他にもあるので、そうしたものも忘れずに申告できるように把握しておくことが、節税のために大切です。
【出典】
国税庁「No.2070?青色申告制度」
国税庁「確定申告書等作成コーナー」
所得税額は、給与所得や不動産所得、雑所得などを合算した金額をもとに決定されます。本業による給料や、マンションを貸すことによる家賃収入だけでなく、その他に副業をしている場合は、その収入も合計されるのです。
副業に関する費用も経費として計上することで、節税の効果が得られます。副業が黒字の場合、全体の収入が増えるため所得税額も上がりますが、逆に経費が多くかかって赤字となっている場合、所得税は下がります。行っている事業について、利益が出ていて申告をしなければならないものもありますが、収支がマイナスの事業についても、経費がかかったことをしっかりと申告することで税金を減らすことが節税には有効です。
所得税法によって所得は10種類に分類されており、土地やマンション、一戸建てなどの不動産を貸すことによるものは、不動産所得に分類されます。[注3]
具体的には家賃や礼金などを不動産収入として計上し、経費を差し引いたうえで不動産所得を求めなければなりません。ここでは、どのようなものが不動産収入に含まれるのかを解説しますので、申告漏れにならないようチェックしておきましょう。
家賃はマンションを貸す際のメインの収入といえるでしょう。部屋の大きさや築年数、立地やリフォーム状況などによって家賃相場は異なりますが、たとえば月10〜20万円に設定すれば、年間120万〜240万円もの家賃収入を確保できます。この家賃収入は不動産収入として申告する必要があるため注意が必要です。
マンションの一室だけではなく、駐車場を一緒に貸すケースもあるでしょう。駐車場の賃料は、家賃に含める場合もありますし、別に徴収する場合もあります。どちらにしても駐車場の賃料は不動産収入ですので、家賃と同様に申告しなければなりません。
共益費や管理費は、マンションの共用部分の設備を維持管理するための費用です。具体的には、エレベーターの点検費用、共用部分の照明の電気代、廊下や階段の清掃費用などとして使われます。家賃とは別に、共益費や管理費を徴収する場合は、しっかりと不動産収入として計上しましょう。
礼金とは、マンションなどの不動産を貸したことに対する謝礼として、入居者に支払ってもらうお金です。敷金とは異なり、礼金は入居者に返却する必要はありません。
地域や慣習によって名称は異なり、「敷引き」などと呼ばれるケースもあります。礼金は、家賃の1〜2ヵ月分とするのが一般的ですが、「礼金なし」とすることも可能です。
返還を行わないお金なので、これも不動産収入です。
契約更新料は、賃貸契約を更新するための手数料や謝礼として、入居者に支払ってもらうお金です。契約期間はさまざまですが、1〜2年ごとの契約更新に合わせて支払ってもらうのが一般的です。契約更新料も不動産収入ですので、確実に計上しておきましょう。
このとき、退去時、全部または一部を返還するような敷金・保証金などは、返還しない分だけを不動産収入として加算するようにしましょう。
以上、この項目では、マンションを貸したときに不動産収入に含まれる主なものを紹介しました。ここで紹介したもの以外にも、部屋を貸すことによる収入がある場合、不動産収入として計上する必要があります。
不動産所得は、不動産収入から経費を差し引いて求めます。不動産所得が増えるほど、より多くの税金を納める必要があるため、節税を狙ううえでは、さまざまな費用をできるだけ経費として計上することが大切です。ここでは、マンションを貸す際に経費として認められる費用を紹介します。税金対策において損をしないよう、ぜひチェックしておきましょう。
固定資産税は、土地や建物などの不動産を所有している人が納税すべき税金です。マンションの一室を所有している場合も例外ではありません。固定資産税の額は、以下のような計算式で求められます。
固定資産税額 = 固定資産評価額 × 税率
固定資産評価額とは、自治体ごとの基準によって決められる不動産の価値のことで、購入価格ではありません。この評価額は、3年ごとに見直されます。税率は自治体ごとに異なりますが、標準税率である1.4%を採用している地域が多いです。
たとえば、固定資産評価額が1,000万円、税率が1.4%の場合、固定資産税額は以下のように計算できます。
固定資産税額 = 1,000万円 × 0.014 = 14万円
固定資産税額は、比較的大きな額の経費であるため、しっかりと計上して節税しましょう。
都市計画税は、各自治体の都市計画に関する事業を行うために徴収される税金です。固定資産税と同様、土地や建物などの所有者に納税義務があります。都市計画税額は、次のように計算されます。
都市計画税額 = 固定資産評価額 × 税率
都市計画税額は、固定資産税と同様に、固定資産評価額をもとに計算します。税率は0.3%以下を基準として設定され、自治体によって異なる場合もあるため注意しましょう。たとえば、固定資産評価額が1,000万円、税率が0.3%の場合、都市計画税額は以下のように計算できます。
都市計画税額 = 1,000万円 × 0.003 = 3万円
マンションを貸している場合でも毎年納税する必要があるため、忘れずに経費として計上しましょう。
火災保険料や地震保険料といった損害保険料も経費として計上できます。マンションを所有している場合、損害保険に加入しているケースも多いでしょう。自宅として使用している場合は経費になりませんが、マンションを貸す場合は、不動産収入を得るために必要な経費として認められます。
減価償却とは、事業のための建物などを購入したとき、その費用を数年間にわたって分割して経費とすることです。マンションを購入した場合も減価償却の考え方が適用されるため、購入した年に、購入費用全額を経費とすることはできません。
マンションの構造や中古・新築ごとに耐用年数が定められており、その年数に分けて、減価償却費として計上するのです。仮に、マンションの購入費用を3,000万円、耐用年数を47年とすると、減価償却費は以下のように計算できます。
減価償却費 = 3,000万円 ÷ 47年 = 63.8万円
減価償却費は、会計上の経費であるため、実際の支出とは異なります。減価償却の仕組みを利用することで、長期間にわたって経費として計上できます。節税にもつながりますので、しっかりと理解しておきましょう。
マンションの管理組合や、マンション管理の委託先の管理会社へ支払われる、マンションの管理費・修繕積立金も経費として計上できます。
もし自分でマンションの管理をする場合は、移動のための交通費やガソリン代、駐車場代や高速道路の料金、掃除道具を購入するための費用などを経費にできます。
マンションを貸す際は、賃貸運用の管理を賃貸管理会社へ委託するケースも多いでしょう。管理委託料や手数料、入居者募集のための広告費などは経費として認められます。
マンションを貸す前に、壁紙を貼り替えたり、キッチン設備を入れ替えたりする場合もあるでしょう。ハウスクリーニングを行ってから、入居してもらうことも一般的です。このようなリフォーム費用やハウスクリーニング費用も経費として計上できます。
細かな部分ですが、マンションを貸す場合に、賃貸管理会社など、業者の担当者と打ち合わせが何かしらで必要となったとき、この打ち合わせを行うために費用が発生したような場合は、その分も経費として認められます。もしそうしたことが複数回あったならば、1回分は少ない額でも合計すると意外と大きな費用となることもあるため、自分で払った飲食代や交通費などがあれば、領収書などは保管しておき、それらも経費とすることで、節税効果は高まるでしょう。
ここまで紹介したように、できるだけ多くの費用を経費とすることで節税効果は高まりますが、経費として認められないものもあるため注意が必要です。当然のこととして、不動産事業の経費として認められる範囲は、不動産事業のためにかかった費用に限られます。なので、プライベートの飲食費や交通費などは、もちろん経費にはなりません。また、これも当たり前だと思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、所得税や住民税も経費として計上できません。住宅ローンがある場合には、利息は経費にできますが、元本は経費ではないため注意しましょう。前述の通り、マンション購入にかかっている費用であれば、ローンとしてではなく減価償却費として経費とみなされています。
経費として認められる範囲を超えて申告すると、税務署の調査が入り、ペナルティを受ける可能性もあります。過少申告加算税や重加算税が課せられ、本来の税額に追加して税金を納めることになる可能性もあるため、十分に注意しましょう。
今回は、マンションを貸すと増額になる可能性のある税金や、節税のポイントについて解説しました。所得税や住民税などは、所得金額によって増減するため、家賃収入を得ることで増える可能性があります。せっかくマンションを貸すなら、納める税金を減らして効率的に資産を形成したいところです。
節税するためには、マンションを貸すことに関わる費用をできるだけ経費として計上することが重要です。固定資産税や都市計画税、マンションの管理費用やハウスクリーニング費用など、さまざまな費用が経費として認められます。不動産収入を維持したままでも、不動産所得を減らすことができれば納税額は少なく抑えられます。領収書など、普段から保存しておかなければならない書類もあります。経費になる項目を把握しておきましょう。
こうした基本的な知識を身に付けた上で、節税のための対策を講じてマンションを貸し出すことができれば、そこには大きな利益を生み出すチャンスがあります。しばらく空けている家がある方も、転勤などで一時的に使わなくなってしまうマンションがある方も、ぜひ一度貸し出すことを検討してみましょう。
[注1]国税庁「所得税の税率」
[注2]国税庁「個人の方に係る復興特別所得税のあらまし」
[注3]国税庁「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
マンションを貸すときの3つの節税ポイントは以下の3つです。
詳しくは「2. マンションを貸すときの3つの節税ポイント」をご覧ください。
マンションを貸したときに含まれる収入はこちらです。
このとき、退去時、全部または一部を返還するような敷金・保証金などは、返還しない分だけを不動産収入として加算するようにしましょう。
詳しくは「3.マンションを貸したときに不動産収入に含まれるもの」でご確認ください。
マンションを貸す際に経費として認められる費用を紹介します。税金対策において損をしないよう、ぜひチェックしておきましょう。
詳しくは「4.不動産所得を算出する際に経費として認められる費用」をご覧ください。
節税するためには、マンションを貸すことに関わる費用をできるだけ経費として計上することが重要です。
固定資産税や都市計画税、マンションの管理費用やハウスクリーニング費用など、さまざまな費用が経費として認められます。
詳しくは「5. マンションを貸すと税金が増える可能性もある!うまく節税することが重要」でご確認ください。
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