戸建ての賃貸経営は、狭い土地や少ない投資額でもできるというメリットがある反面、アパートや一棟賃貸マンションとは異なるリスクが存在します。
集合住宅ではないことから入居者が他人に気を遣わずに住めるため、近隣トラブルや禁止事項の違反トラブルが生じることも多いです。
揉めごとを防ぐには、あらかじめトラブル事例と対策を知っておくことが望ましいといえます。
この記事では、戸建てを持つオーナーが賃貸に出す際にありがちなトラブル事例と、それらを未然に防ぎ、解決するための具体的な方法を解説します。戸建てオーナーで賃貸を検討している方は必見の内容です。
目次
1.戸建て賃貸トラブルの主要4パターン
戸建て賃貸(賃貸に出す)のトラブルの主要4パターンを紹介します。

1-1.建物・設備のトラブル
戸建て賃貸では、建物や設備が破損したり、故障したりすることでトラブルになることがあります。
特に相続で引き継いだ実家等の築年数の古い物件を貸し出す際は、建物や設備に損傷や動作不良がないかをしっかりと確認することが重要です。

竹内英二【資格】不動産鑑定士、賃貸不動産経営管理士
【ワンポイントアドバイス】
戸建て賃貸はアパートよりも収益性が低いことから、新築で供給される物件は少ないです。
メンテナンスが不十分な築古物件も多く、建物のトラブルが生じやすいといえます。
1-2.近隣トラブル
戸建てが多い地域は町内会が設置されている地域もあり、多くの場合は住人である借主に対して加入が求められます。町内会に加入しなければゴミ捨て場が使用できないといったルールが設定されている場合もあり、町内会への加入を希望しない借主とトラブルとなる可能性があります。
また、アパートや賃貸マンションのように隣戸の住人による監視機能も働きにくく、トラブルが深刻化しやすい要因といえます。
1-3.入居後のトラブル
戸建ては独立した建物に借主が独占的に住んでいるため、マンション等の集合住宅とは異なり、他の入居者からの監視機能が働きにくいです。
契約に違反していることが管理会社や貸主に知られにくく、禁止事項を破られてしまうこともあります。
1-4.退去時のトラブル
退去時は、主に原状回復でトラブルが発生することが多いです。
戸建て賃貸は、築年数の古い物件が貸し出されることが多いため、元々壊れていたものか、入居後に壊れたものかがはっきりしない場合があります。
賃貸部分も建物以外に庭や物置き、門扉等があり、必然的に原状回復でトラブルになりやすい箇所です。
関連記事:実家を賃貸に出す際の近隣トラブル8つの防止策
2.戸建て賃貸トラブルの12事例と対策

戸建て賃貸(賃貸に出す)にありがちな個別のトラブル事例と対策について紹介します。
2-1.建物・設備に関するトラブル
建物・設備に関するトラブルを解説します。
エアコンや給湯器が故障した場合の対応は?貸主・借主どちらの負担?
【事例】
戸建ては、相続で引き継いだ古い空き家等を貸し出すことが多いです。
エアコンや給湯器の設備が耐用年数を満了していることが多く、そのまま貸し出すと設備がすぐに動かなくなるといったトラブルが発生します。
貸した時点で備え付けであった設備は貸主の資産であるため、寿命等で故障した場合の修繕費は原則貸主の負担です。
【対策】
- 貸し出し前の動作確認:正常に作動するか一つ一つの設備を確認しておくことが基本です。
- 寿命が近い設備の交換検討:10年以上経っている設備は、寿命で自然に壊れる可能性があるため、壊れていなくても貸し出す前に交換しておくことをおすすめします。
- 借主による破損時の対応:借主が故意(わざと)または過失(うっかり)で壊した設備に関しては、修繕費は借主の負担です。
雨漏りが発生したときの修繕義務と対応の流れ
【事例】
築年数の古い物件を戸建て賃貸に出すケースでは、雨漏りが発生するケースがあります。
雨漏りのような建物の損傷が原因の場合には、貸主の費用負担で修繕することが必要です。
また、雨漏りが原因で入居者が家を使用できない状況になった場合は、仮住まいの手配や使用できなかった期間の賃料の減額を求められることもあります。
【対策】
- 貸し出し前の雨漏りチェック: 貸す前に雨漏りがないかをチェックしておくことが望ましいです。
チェックする箇所は屋根、外壁、ベランダ、サッシ・窓が一般的です。
ひび割れ、塗装の剥がれ、シミや変色、窓枠から水が染み込んでいないかなどです。 - 発生後の専門業者手配:貸した後に雨漏りが生じてしまった場合には、屋根業者等を手配して雨漏りの原因を調査し、対策工事を実施する必要があります。
以上のことから、雨漏りや設備の故障は、加入している賃貸住宅総合保険や施設賠償責任保険で対応できる場合があります。
シロアリ被害で建物に損傷…誰が責任を負うのか?
【事例】
築年数の古い戸建て賃貸では、シロアリによる床の腐食でトラブルになるケースがあります。
床の腐食も、貸主の費用負担で修繕すべき部分です。
【対策】
- 貸し出す前のシロアリチェック: 業者に依頼して貸す前にシロアリ被害がないことを確認することが根本的な対策です。
- 発生後の専門業者手配: 貸した後にシロアリ被害が発生したら、対策業者を手配して貸主の費用負担で修繕することが必要です。
2-2.近隣トラブル
戸建てを賃貸に出す際の主な近隣トラブルについて解説します。
借主の生活音による騒音トラブルへの対応と予防策
【事例】
隣の住戸と近接して建っている物件では、近隣住民との間で騒音トラブルが生じることも多いです。
窓を開けたまま大音量でテレビを見たり、夜にピアノを演奏したりすると、近隣からクレームが来ることがあります。
【対策】
- 管理会社を通じた注意喚起: 実際にクレームが来たら、管理会社を通じて借主に注意する必要があります。
- 賃貸借契約書での明確化: 賃貸借契約書に騒音で近隣に迷惑をかけることを禁止事項に加えることが基本です。
- 入居時のマナー周知: 入居時に「利用の手引き」として、賃貸物件でのマナーを守る暮らしのガイドブックを管理会社から渡してもらうことも望ましいといえます。
ゴミ出しルール違反で近隣からクレームが来たら?
【事例】
入居者が自治体や町会が定めたゴミ出しルールを守らないと、トラブルになることが多いです。
また、町会によってはゴミステーションの掃除当番を任されることもあり、掃除を怠ると近隣住民からクレームが入ることもあります。
【対策】
- 管理会社を通じた注意喚起: 実際にクレームが来たら、管理会社を通じて借主に注意する必要があります。
- 入居時のルール説明と配布: 入居時に自治会で定めたゴミ出しルールを必ず配布し、管理会社を通じて説明してもらうことが基本です。
- 賃貸借契約書での厳格化: 賃貸借契約書にもゴミ出しルールに違反することを禁止事項に加え、契約書に基づいて強く注意喚起できるようにしておくことも望ましいといえます。
庭木が越境した場合の責任と解決方法とは?
【事例】
戸建て賃貸(賃貸に出すこと)は、庭の部分も含めて貸している点がアパートや賃貸マンションと異なる点です。
入居者が庭の手入れを怠り、植栽が隣住戸に越境するとトラブルとなってしまうことがあります。
【対策】
- 越境時の迅速な剪定: 実際に越境したら、すぐに剪定することが解決方法です。
- 貸し出し前の剪定・伐採: 事前の対策としては、貸す前に越境の可能性のある庭木は伐採しておくか、もしくは十分に剪定をしておくことが望ましいです。
- 賃貸借契約書での義務化: 賃貸借契約書に庭木や植栽の手入れを借主の義務として課すことを明記しておくことも適切といえます。
2-3.入居後のトラブル
入居後のトラブルについて解説します。
ペット飼育や楽器演奏などの契約違反があったときどう対応する?
【事例】
賃貸物件では、借主が契約書に記載されている禁止事項に違反するといったトラブルがあります。
禁止事項違反とは、例えばペット飼育禁止であるにも関わらずペットを飼うことや、楽器演奏禁止であるにも関わらず大音量で演奏することが挙げられます。
【対策】
- 管理会社による巡回: 管理会社に定期的に巡回してもらい、入居者の様子を確認してもらうことが適切です。
- 契約解除の検討: 契約書上の禁止事項に違反している場合、悪質なケースであれば契約解除事由に相当する可能性があります。契約解除事由に相当すれば、退去を勧告することもできます。
借主の不注意で発生したトラブル、オーナーはどこまで責任?
【事例】
戸建て賃貸(賃貸に出す)に関わらず、賃貸物件の借主には善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)が存在します。
例えば、結露が生じて床に水が広がった場合に床を拭くといったことは、借主に課される善管注意義務の一つです。
借り主が結露の水を拭き取るのを怠り、床にカビが広がるといったトラブルがあります。
【対策】
- 借主への費用請求: 借主の善管注意義務によって生じた汚損や損傷は、借主の費用負担で修繕しなければならない部分であり、オーナーに責任はありません。退去時に発覚した場合には、借主に対して原状回復費用を請求することができます。
- 入居時の善管注意義務説明: 入居時に管理会社から借主には善管注意義務が課されていることを説明してもらうことも対策となります。
家賃滞納が続いたときの督促方法と法的手続き
【事例】
戸建て賃貸(賃貸に出す)に限らず、家賃滞納は賃貸物件で起こり得るトラブルの一つです。
家賃は滞納されてもすぐには契約解除をできず、一般的には3ヶ月以上連続で滞納されたときにようやく契約解除事由が生じると解されています。
【対策】
滞納予防策:
- 入居時に敷金を預かる。
- 借主に家賃保証会社に加入を義務付ける。
- 連帯保証人を確保する。
管理会社による督促: 実際に滞納が発生したら、管理会社に督促を行ってもらうことが基本です。
法的措置の検討: 1~2ヶ月督促しても3ヶ月目も滞納があれば、法的措置を取る場合もあります。
借主から家賃の減額交渉があった場合、応じるべきか?
【事例】
戸建て賃貸(賃貸に出す)は、一棟貸しであるため、借主から家賃の減額要請があると断りにくく、もし減額交渉賃貸オーナーとしてはトラブルに感じるかもしれません。
ただし、借主からの家賃の減額要請は、借地借家法でも認められており、現行の家賃が周辺相場よりも高ければ、借主の主張にも正当性があります。
【対策】
- 周辺相場との比較: 現行の家賃が周辺相場と比べて特段高くない場合には、減額に応じる必要はありません。
- 相場への引き下げ検討: 現行の家賃が明らかに周辺相場よりも高ければ、相場の家賃まで引き下げることも適切な対策となります。
2-4.退去時のトラブル
退去時のトラブルについて解説します。
大量の私物を残して退去した借主への対応方法は?
【事例】
戸建て賃貸(賃貸に出す)では、庭に物置等があり、退去時に私物が大量に残置されてしまうというトラブルもあります。
【対策】
私物の残置については、退去時に物置や庭、収納等を入念にチェックし、残置物がないかを確認することが対策です。
連絡先も聞いておき、仮に後から残置物が発見された場合には、連絡して処分方法を決めることが適切といえます。
- 退去時の入念なチェック: 退去時に残置物、戸建てであれば物置や庭、収納等を入念にチェックし、私物の残地物がないかを確認することが対策です。
- 連絡先の確認と処分方法の協議: 連絡先も聞いておき、仮に後から残置物が発見された場合には、連絡して処分方法を決めることが適切といえます。
原状回復をめぐるトラブルと費用の負担ルール
【事例】
戸建て賃貸(賃貸に出す)は賃貸面積が広いため、原状回復でもトラブルになりやすいです。
借主に過剰な要求をし、返還すべき敷金が減ると、返還敷金の額で揉めることがあります。
原状回復に関しては、必ずしも借主だけに原因があるとは限らず、貸主の理解が不十分なことが起因してトラブルとなることも多いです。
【対策】
- ガイドラインの遵守: 有効な特約を定めていない限り、国土交通省が提示する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に従うことが原則です。
- 費用負担の原則理解: ガイドラインでは、経年劣化や通常損耗の部分を借主に費用負担させることは原則としてできず、貸主の費用で修繕しなければなりません。
- 通常損耗: 借主の通常の使用により生じる損耗のこと。
- 経年劣化: 建物や設備等の自然的な劣化または損耗のこと。
- 費用目安の理解: 例えば、経年劣化対策で70平米のマンションでクロスの張り替えを行う場合、貸主が負担する費用の目安は92,400円(1,320円/円)程度、8畳程度の広さでエアコン買い替え費用は(50,000円~80,000円)くらいとなります。
- 貸主の知識習得: 貸主側からの過剰な要求は原状回復のトラブルの原因にもなるため、貸主も管理会社から原状回復について一度レクチャーを受けておくこともおすすめします。
戸建て賃貸(賃貸に出すこと)は戸建ての貸し出し実績が豊富な管理会社に委託することが、適切な賃料設定をはじめ、その後の賃貸管理全般において安心して任せられます。
3.戸建ての賃貸トラブルを未然に防ぐ3つの対策

戸建て賃貸は、個別のトラブルが発生した際に都度対応する必要はありますが、もっと全般的にトラブルを未然に防止する方法があります。
この章では、戸建て賃貸(賃貸に出す)のトラブルを防ぐ対策について解説します。
3-1.戸建て賃貸の管理実績が豊富な会社に依頼する
戸建て賃貸(賃貸に出す)のトラブルを防ぐには、戸建て賃貸(賃貸に出す)の管理実績が豊富な会社に依頼することが重要です。
実績が豊富な管理会社は戸建て賃貸のトラブルを熟知しているため、まず貸し出す前に適切なアドバイスをもらえることが期待できます。
物件を見て、トラブルが生じそうな部分があれば、何らかの対処方法を助言してくれます。
また、管理実績が豊富な会社は、適切な入居審査も行うことができる点が強みです。
適切な入居審査によってトラブルを引き起こしそうな入居者を事前に排除できるため、自然とトラブルを減らすことができます。
トラブルに対処するには、適切な管理会社に管理を委託することが効果的な対策です。
管理会社探しの第一歩は、持ち家の正確な賃料を知ることから始まります。
戸建て賃貸の管理実績が豊富な当社に賃料査定を依頼していただければと思います。
●戸建ての賃貸には適切な賃料設定が重要。賃料査定はこちらから

竹内英二【資格】不動産鑑定士、賃貸不動産経営管理士
【ワンポイントアドバイス】
戸建て賃貸はアパートよりも収益性が低いことから、新築で供給される物件は少ないです。
メンテナンスが不十分な築古物件も多く、建物のトラブルが生じやすいといえます。
3-2.貸す前に住宅診断を実施する
住宅診断(インスペクション)とは、建物の専門家による簡易な建物状況調査のことです。
築年数の古い戸建てを貸し出す場合には、事前に住宅診断を実施することをおすすめします。
住宅診断は、比較的安価な費用で柱や基礎、壁、屋根などの構造耐力上主要な部分や、外壁や開口部などの雨水の浸入を防止する部分を調査できる点がメリットです。
住宅診断の費用は、戸建てであれば5~7万円程度になります。
住宅診断に合格すれば、雨漏りやシロアリによる腐食のリスクが低いことが判明するため、物件を安心して貸し出すことができます。
雨漏りやシロアリのトラブルは、貸した後に判明すると借主が住んでいる状態で修繕しなければならず、対応に苦慮してしまうことが多いです。
そのため、事前にリスクを潰しておくことは、貸主と借主の双方にとって有効な対策となります。
3-3.賃貸借契約の内容を精査する
いざトラブルが発生した場合、頼りになるのが賃貸借契約書といえます。
賃貸借契約書で取り決めがなされている内容であれば、契約書に基づいて判断することができるため、トラブルに対処しやすいです。
近隣の住民に迷惑をかける行為に関して、どのような行為をしてはいけないかを具体的に書くと、実際にトラブルが発生したときに対処しやすくなります。
例えば、町会で定められたゴミ出しルールに反することを禁止事項に記載しておけば、ゴミ出しでトラブルが発生した際に厳重注意をしやすいです。
場合によっては、禁止事項に著しく反していれば契約解除事由に該当する可能性も高くなり、借主を強制的に退去させることができます。
賃貸借契約書は、通常は管理会社が用意してくれます。
戸建て賃貸に慣れている管理会社の方が適切な賃貸借契約書を用意してくれるため、賃貸借契約書は管理会社選びとも合わせて対策を取ることが適切です。
関連記事:賃貸物件で起こるマンショントラブルは賃貸管理で解決
まとめ
以上、戸建て賃貸のトラブルについて解説してきました。
戸建て賃貸は、古い建物が多く、住人同士の監視の目もないことから、アパートや賃貸マンションでは見られないトラブルも発生しやすいです。
戸建て賃貸のトラブルを防ぐには、管理会社の協力が欠かせません。
戸建てを貸す場合には、戸建て賃貸の管理実績が豊富な会社に管理を任せることが重要となります。
トラブルを最小化し、安定した戸建て賃貸経営を目指すうえで、参考にして頂けると幸いです。